俺の勤務する会社には、何社、と言うよりも数種類・多数のの保険会社のセールスレディーが出はいりしている。
例えば生命保険は“N生命の橋本さん”を中心に数名、損害保険は“T海上火災の岡田さん”を中心に数名、医療保険は“AH社の吉田さん”を中心に数名といった布陣でうちの会社を徘徊しているのだ。
特に新入社員が入ってくる四月は、彼女達が我が物顔で社内を跳梁跋扈するがごとくと言った感じで、自分の会社の新入社員を連れて各部署をまわり、いわゆる“面通し”をすることが常だった。
今年の四月の事だった。
俺が係長を務める人事部の教育関係の部署にも、AH社の吉田さんが、自社の新入社員を連れて現れた。
三人の若い女性を連れて現れ、俺の部署にいる八人に自社の新入社員を紹介し、自社の女性たちに俺たち八人をそれとなく解らせるようにしていた。
「田沢係長さん、この間御説明させていただきました“医療保険”の件で御座いますけれど、その後ご検討いただけました?」と、いきなり振られて、俺は何のことだっけと思いだせずに「え!、吉田さんに何か説明してもらいましたっけ?俺、ボケちゃったかな〜」と言うと「ご注意なさりませんと、本当にボケましてよ」と、アラフォー美女の吉田さんはおかしそうに笑いだした。
「それではちょっとだけ、そうですね、五〜六分お時間よろしいですか?こんど入りました“田中”が是非ご説明申し上げたいと申しまして、お時間をいただけますようお願いして欲しい、と私に申しますので、聴き届けてやってくださいませ」と、慇懃に言うのだ。
俺はいきなりそう来られて、断わると何となく角がたつので「あ、あ〜、まあ、ちょっとだけなら・・・」と言ってしまった。
吉田さんの連れて来ていた新人の女性が「早速お時間を頂戴いたしまして有難うございます。私吉田の部下で御座いまして“田中美咲”と申します。宜しくお願い申しあげます」と挨拶をしてきた。長身でプロポーションがよく、色白で細面、目鼻立ちがスッキリとしているが、どこか可愛らしい美人だ。
彼女はAH社がこの春から発売を始めた医療保険の説明を始めた。先進医療保証が、通産一千万円付いた、なかなか保証の手厚い内容の保険だった。俺はまだ若いし、入院や手術には全く関心がなかったのだが、掛け捨てではあるが毎月の保険料が終身変わらず、保証内容が保証されることに、ちょっと魅力を覚えて契約をすることにした。
そして、後日申込書を、田中さんの指導で書き、無事に申し込みをおわり、後日保険期間の開始となったのだった。
しかし、人の運命とは解らないもので、保険期間開始から二日後の事だった。
俺は仕事が終わった後、翌日が休みだったことも手伝い、他部署の同僚と強かに飲んで帰宅の途に着いた。
終電を過ぎた時間まで飲んだので、当然タクシーで帰途に着いたのだが、自宅近くのコンビニで夜食のカップ饂飩を買うために下車してタクシーを帰したのだった。
買物を終え、自宅までの道をボーっとして歩いていたら、後ろから車のライトが近づいてきた。
俺はそのまま追いこしていくものと思っていたら、いきなり人が降りてきて俺は後頭部を何かで殴らてしまった。
痛みで気がついたが、身体じゅうが痛くて動けなかった。襲われたことははっきりしていたが、どこを怪我しているのかは全く判らず、うめき声をあげることしかできなかった。
次に気がついたのは、病院のベッドの上だった。そして、傍には田中さんがいた。
何故、彼女がいたのかは後で判ったのだが、偶然、彼女の実家が俺の住まいのすぐ近所で、救急車が来たので表に出てみたら搬送される俺を見て、後から病院に駆けつけてくれたと言う訳だった。
彼女は入院手続きから、保険請求の手続きまで一切をやってくれた。
独り暮らしの俺には、本当にありがたかった。彼女が天使に見えたものだった。
俺はいずれ、彼女を好きになるだろうと、強く思っている、と言うよりもすでに好きになっているのだろう。
こんな出会いもあるものだ。
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